帰還・弐


 かつて、『服部半蔵』の名を負っていた男は、諸国の情勢を探る浮草となっていた。
 『服部半蔵』だった者のには、ふさわしいようにも、惜しいようにも、見える役目である。
 実際、伊賀衆の中でも意見は様々に割れ、様々な憶測が流れた。
 しかし男は何一つ語ることなく、飄々と諸国を、まさに浮草の如くに流れながら、己の役目を果たした。
 そのようにして年を重ね、男の髪に白いものが随分と混じり、しわが顔に刻まれていった、頃。男はある兵法家の噂を聞いた。
 七尺を超す巨漢であり、五尺もの大太刀を振るうという。
 剛剣でありながら、千変万化の流れを持つ剣技を得意とするという。
 その噂を、同じ浮草の忍から聞いたときも、男は飄々とした態度を崩すことはなかった。
 ただ、ぽん、と己の腕のない左肩に手を置いただけである。
 しかしその後、男の足はその兵法家のいる地へと、向いていた。


                                                 ひとまず、幕

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