おんなのめ



 苦流いに生きる弱い者は、心在れば狂うしかない。


 赤と、青と。
 人にあらざる色の目は、だから、心なき目と見えた。


 あのおんなのめ。
 口からは罵りの言葉を吐き、身を怒りだか恐怖だかに震わせる女の目は、虚ろだった。
 いかりもにくしみもおそれもきょぜつもないただただ虚ろな目だった。


 苦流いに生きる弱い者は、心在れば狂うしかない。


 同じ目だ。
 怒りに身を震わせ怒りの声を上げ怒りの剣を震う女の目は、それでも虚ろだった。


 苦流いに生きる弱い者は、心在れば狂うしかない。


 だからか。
 だから忘れられぬのか。
 赤と、青の目。
 あの女の目。


――忌々しい。
 呟きが、心のざわめきを増す。
 身に、肉に、骨に、五臓に、血の一雫に、絡みつき、食い込んでくるおぞましい感覚。


 びゃっ!


 消える。


 苦流いに生きる弱い者は、心在れば狂うしかない。


 それは、ただひととき。


 おんなのめ。
 ただただ虚ろな女の目。


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