(メストムック収録バージョン)
パリの郊外、ブローニュの森近くにシャルロットの屋敷はあった。彼女は貴族の出身ではあったがさほど身分は高くなかった。また彼女はあまり社交界を好まず、以前はヴェルサイユへ舞踏会に出かけることもあったが、今ではそれも少なくなった。彼女は剣の稽古をしたり、キツネを狩ったり、領地の農民の暮らしを視察することを好んだ。貴族でありながら質素に暮らし、現在の政治に不満を抱く彼女に農民も信頼を寄せていた。
ある日、彼女は、一部の良識ある貴族に飢えに苦しむ町の人々の様子を報告するため、珍しくクローゼットから深紅のドレスを引っ張り出し、ヴェルサイユへと向かった。そこは貴族だけが立ち入ることを許された、1つの街である。ロココ調宮殿は優美にして豪奢、全てが栄華と繁栄を象徴している。シャルロットはさながら深窓の令嬢のような足取りで約束を取っていた男爵のもとへ向かった。「戦い(マルス)の間」にさしかかったころ、女の高い声が聞こえて来た。女はかなり身分が高いらしく、口調は威圧的である。
「ああ、退屈だこと。お喋りや舞踏会、賭博、何もかも飽きてしまったわ。他に面白いことはないかしら…そうそう、わたくしになにかとうるさい者たちの処刑をしましょう。バスチーユには処刑されても仕方がない者たちもいることだし」
女の正体は王妃だった。だが、以前舞踏会で会ったときとまるで雰囲気が違う。シャルロットは気配を殺し、声のするほうにそっと近づく。もちろん手には隠し持って入った愛用のレイピア“ラロッシュ”が握られている。
「そこにいるのは誰です」
完全に気配を殺していたにもかかわらず、王妃はシャルロットの存在を悟った。シャルロットはドレスの裾をつまみあげてラロッシュを隠すようにして、王妃の前に姿を現した。王妃の形相は以前とあまりにも違っていた。美しさは変わらずとも何と妖しげな表情か。そして、その背後に異様な影があるのを彼女は見逃さなかった。
「陛下に憑り付きし魔物よ。この混乱もそなたが原因か?」
言うや否や、問答無用とばかりに愛剣ラロッシュを抜いた。魔物は王妃の体を離れ、大きく跳躍した。
「お前には倒せぬ。我は暗黒神アンブロジァ。この国もこれで終わりよ」
言葉の主は影となって消えていった。王妃は気を失い床に倒れている。
「腐敗の原因はアンブロジァか…。国民を救うためには奴を倒さねば!」
シャルロットはアンブロジァを討つ決意をした。すべては祖国フランスのために。
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