不知火幻庵 <葬られし一族の雄>


公式ストーリー

 (メストムック収録バージョン)

「……幻庵様、行ってしまわれるのですね?」
「未練がましいケ。あざみ」
 不知火一族の最強戦士である幻庵は、血がざわめくのを感じていた。それは幻庵だけではなく、不知火一族の者すべての者が何かを感じ取っていたのだ。皆、時がたつにつれてだんだんと落ち着きが欠け、そわそわとした様子を見せた。ただ、それは決して不快なものではなく、女子供の泣き叫ぶ声や人を殺めることの爽快感などのような、邪を好み闇に生きる者たちの、心地良い何かであった。
 だが、幻庵には他の者とは少し異なる感情があった。魔性の歓喜の中で、なおかつ気に入らない要素が心の中に生じていた。自分に代わる何者かが魔の頂点に立とうとしているのではないか?原始的ではあるが、彼の第六感がそう告げていた。
「血がワシを呼ぶケ、血が騒ぐ方向に進み、その中心となる者を骸と変えた時、ワシが魔道の王だんケケケ!」
 不知火一族の歴史を遡ると魔界にまで通ずる。何らかの影響で不知火の祖先にあたる者が人間界に落ち、そして交わり、現在に至ったのであろう。その有様を語り継ぐものはなく、ましてや覚えている者さえもいないが、邪悪なる血だけが知っている、魔界の記憶。それが天草を復活させたアンブロジァと共鳴しているのだろう。
「オトウチャ、いってらっしゃい」
 何も知らない子供たちが、不気味な笑顔を浮かべている。
「幻庵様、どうかお気をつけて」
 あざみはその場で泣き崩れた。まだ未練が残るのであろう。
「ついて来るなケ」
 妻の名前を付けた爪を鳴らして、幻庵は鬼哭島を後にした。




 (ALLABOUT収録バージョン)
<ケケケケケ>

 機は熟した。

「……幻庵様、あなた、行ってしまわれるのですね?」
「あざみ。未練がましいケ」

 不知火一族の最強戦士である幻庵は、血が騒めくのを感じていた。その感覚は海鳥たちが渡っていく頃から始まり、嵐が続くいま、ピークに達していた。それを感じているのは幻庵だけではなく、一族の者全てが何かを感じ取っていた。皆、時が経つにつれてだんだんと落ち着きがなくなり、そわそわとした様子を見せた。ただ、それは不快な感覚ではなく、人を殺める爽快感や、女子供の泣き叫ぶ声など、邪を好み闇に生きる一族にとっては、むしろ心地良いものであった。(※1)

 だが幻庵には、他の者とは少し異なる感情があった。心地良き魔性の歓喜の中で、なおかつ気に入らない要素が心の中に生じていた。自分に変わる何者かが魔の頂点に立とうとしているのではないか?原始的ではあるが、彼の第6感(※2)がそう告げていた。

「血がワシを呼んでいるケ、この赤黒き血の教えるところに、殺戮の喜びを与えねばならんヤツがいるケ。そいつを倒した時こそ、ワシが魔道の王となるケ!ケ、ケ、ケケケケケ!」

 不知火一族の歴史を遡ると魔界にまで通じている。何らかの影響で不知火の祖先にあたる者が人間界に落ち、交わり、現在に至ったのだろう。その有様を語り継ぐものも物品も残されてはいないが、邪悪なDNAに刻み付けられた魔界の記憶が、天草四郎時貞の復活と共鳴し合うのだろう。

「オトウチャ、どっかいくのケ?」
「えー、オトウチャ、どこどこ?」
 幻庵と同じ様に耳の尖った子供達が、不気味な笑顔(※3)を浮かべて聞く。純粋な彼らには母親の涙は理解出来ない。子供らの声が、妻ざみの悲しみを煽る。

「あなた、どうかお気をつけて……」
 あざみはその場で泣き崩れた。
「行かせてくれるケ……すまない、お前……」
 こうして幻庵は鬼哭島を後にした。手には妻の名をつけた武器を持っていた。

(※1)ヒトでいうと、思春期に好きな人に対して思うやや無謀な衝動、イライラするような気持ち良いような感じ、とでも申しましょうか。懐かしい原始的なアレですね。
(※2)ヒトでいうと「虫の報せ」というヤツだが、不知火一族では「骨髄のささやき」とされている。
(※3)ヒトでいうところの「無邪気な」や「可愛い」といった表現である。その他「邪悪な」「陰気な」「薄暗い」「薄情な」なども他人を褒める表現となる。


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