ぱちぱちと、軽い音を立てて薪の弾ける音が森の中に響く。 秋も深まり、日が落ちると途端に身を裂かれるような冷気が降りてくる。 金髪碧眼の忍者、ガルフォードは焚き火にくべる小枝を折りながら、側に寝そべる大きな愛犬に話しかけた。 「今日は冷えるな、パピィ」 ワン、と大きな犬は返事を返し、頭をガルフォードに擦り付ける。 「ぱぴぃ、って、いうんだ。この犬」 ガルフォードと一緒に焚き火を囲む少年がパピィの背中を撫でる。パピィは気持ち良さそうに目を細めた。 「そうさ、俺の大事な友達さ」 ガルフォードは少年に向かって笑った。 最近頻繁に起きる事件の元凶をガルフォードは調べていた。そのとき、同門の忍者アースクェイクと出会い、災禍の中心は日本にある事を知った。 さすれば、きっと師なら何か知っているだろうと、この出羽山中まで足を運んだが、 「それを調べるのも忍びの仕事じゃ」 といって師に追い返されてしまったのである。(※1) 仕方なしに山を降りて行く途中でガルフォードは、山菜を取りに来た迷子の少年と出くわした。 迷子になった心細さと、見たことも無い髪と瞳の人間と大きな犬に驚いて、少年は泣き出しそうになったが、 「OK! 俺が麓まで連れて行ってやるぜ」 そう言った、優しいガルフォードの表情を見て、少年は安心し一緒に山を降りることになったのである。 しかし、何も教えてくれないなんて、師匠も冷たい、などと考え事をしていると、不意にマフラーを引っ張られた。 「ん?どうしたんだ、パピィ」 見ると、少年がパピィに抱き着いたまま気持ち良さそうに寝ている。 「ま、今日だけだし、我慢だなパピィ」 パピィはクゥン、と情けなく啼く。 穏やかな寝息を立てて寝ている少年を見て、ガルフォードはついつい微笑みがこぼれた。 「懐かしいなぁ。あんなころもあったよな……」 「うぁぁぁん。お母さ〜ん」 少年が顔中を涙で濡らし、キッチンの方へと駆けて行く。 「またガルフォードを泣かせたの? シェーラ」 キッチンから出て来た姉のルージェ(※2)が幼いガルフォードをなだめながら、階段の影に隠れている妹に、 「違うわよ。あたしが泣かせたんじゃないわよ」 シェーラ(※3)が階段の影から顔を覗かせると、 「うぁぁぁぁぁん」 ガルフォードが更に泣き出した。 「どうした? 何を泣いているんだ、ガルフォード」 大きな手がガルフォードを持ち上げる。 「おかえりなさい、父さん」 「パパ、おかえり」 「お父さん……」 子供達が帰って来た父親に挨拶すると、父は「おう、ただいま」と軽く答えた。 父親はガルフォードを抱き上げると、 「男が簡単に泣いてどうする? そんなことじゃ、自分の大切なものを護れないぞ」 「大切なもの……」 涙を拭いながら父を見る。 「そうだ、強くなきゃ大切なものは護れないぞ」 「僕も強くなれるかな……」 「もう、泣かないのならきっとなれる。この俺の子だからな」 父は豪快に笑った。 「うん。もう泣かないよ。きっと父さんのように強くなるんだ」 笑顔を見せるガルフォードに、父はうれしそうに笑った。 ガルフォードの父は保安官だった。大きな背中と人懐っこい笑顔が印象的で、町の人達からも慕われていた。正義感が強く、悪党には容赦せずに完璧なまでに叩き伏せた。仕事に関しては融通がきかないほどで、しばしば仲間の保安官からも止められることもあったという。(※4)そのため、無法者に命を狙われることもしばしばあったが、逆に相手を打ち伏せた。 あの日までは……。 血が流れていた。雨が降っていた。小さいガルフォードは父に抱き着き泣いていた。 父は悪党の凶弾から子供を守るために、自らを盾にした。(※5) 「……もう、泣かないんじゃなかったのか……」 苦しそうに父が言う。 「………………」 ガルフォードは何も言えず、ただ、泣いていた。 父は大きな手をガルフォードの頭に乗せて、笑みを浮かべて言った。 「ガルフォード………………みんなを頼んだぞ………………強く……なれよ……」 それが最後の言葉だった。 ぱちぱちと、薪のはぜる音が響く。 ガルフォードは少年に毛布を掛け、星空を見上げながら呟いた。 「父さん……。俺は、もっと強くなるよ」 次の日、少年を麓の村まで送っていった。 少年の母は少年と共に何度も礼を言った。別れの直前、少年は瞳を輝かせながら言った。 「お兄ちゃん、頑張ってね。きっと悪い奴らを倒してよ」 「ああ、約束するよ。いくぜ、パピィ!」 ガルフォードは少年に手を振り村を後にした。 邪悪な者を倒すために、自分を研くために。 (※1)ガルフォードは、この出羽山中に住むくノ一から忍術を教わった。ちなみに名前は「綾女」。半蔵の師匠の奥さんである。 (※2)一番上の姉。ガルフォードとは4歳離れており、母に代わってよく3人の面倒をみた。 (※3)次女。ガルフォードとは1歳違い。男っぽい性格のうえ、ガルフォードと年齢が近かった為、よく一緒に遊んだ。ちなみにガルフォードには2歳下の妹、セレナがいるが、性格はおとなしく泣き虫である。 (※4)子供が数人虐殺されるという事件があった。この時の犯人は事件から5年が過ぎても自分で歩くことができなかったという。 (※5)ガルフォードの父は子供好きでも有名だった。そのことを逆手に取られ、子供を狙うことで彼を銃の前におびき出した。 |
最近、悪事を働くヤツらが急速に増えてきた。不審に思ったガルフォードは、一連の事件を分析してみると、魔界の影が精神の弱い者に働きかけ、悪事に走らせているのを知った。このままでは、世界中の人間が悪人となってしまう。 「こうしちゃいられないぜ。早く魔界の者を倒さないと、大変なことになる。いくぜ、パピィ!」 「ワンワン!」 |