服部半蔵



公式ストーリー

<忍び>
 雲は陽を覆い隠し、風は獣の如く大地を走る。
 京都、八瀬へと向かう山中で服部半蔵はただ一人の男と対峙していた。
 男が何者かを知る由もない。ただ、手練た忍びであるこの男を倒し、その懐に眠る密書を手に入れねばならぬのだ。
 既に男の仲間の忍びは半蔵の手によって息絶えていた。
 残るはこの手練れた忍びのみである。
 半蔵が男とその仲間を追い始めてから、既に三刻が過ぎ陽は傾き始めていた。いかに修行を積んだ半蔵といえど、気力と体力は限界に近い。また、男もそろそろ限界だろう。
 空気はぴんと張り、獣の鳴き声も聞こえない。
 互いが何処に潜んでいるかを図りつつ、動き出す機会を狙っている。
 風が止まった。
 先に動いたのは相手の忍びであった。
 木々の隙間から鉤爪の形をした苦無が飛んでくる。いかに疲れはいても、苦無の飛ぶ方向は正確極まりなく半蔵を目指す。
 半蔵はこの機会を待っていたかのように、音も立てずその場を離れ木々を駆け上がり、忍びに向かい石飛礫を放ち、すかさず印を結んだ。
「臨!」
 半蔵は複数に分身する。正確には秘薬を用いて相手に幻覚を見せ、あたかも複数に分身したかのように見せるのだ。
 石飛礫は男に当たり、男が体勢を崩した瞬間、半蔵は男の背後に回り、刃を一閃する。
 半蔵は手ごたえを感じた。
 男は受けた傷の痛みをこらえつつ、満身の力を振り絞り煙玉を放ち、半蔵は一瞬視界を奪われた。
 と、同時に男の気配が消えた。男は伊賀忍群頭目から逃げることに成功したのである。
 一瞬の不覚を取った半蔵であったが、あの傷ではとうてい逃げられまい、と男を追うことは止め、自らの疲れを癒すため、その場を離れた。

 翌日早く、半蔵は取り逃がした忍びを追うべく、武士の姿に身を変え、京に向かう山道を下っていった。
 途中、柔和な顔の物売りの老人を追い越そうとして、半蔵は、
「そうか、ぬしが忍びであったか」
 と言い、年老いた物売りの背中に刃を立てた。
 一瞬のことで物売りは交わす事ができず、その曲がった背中に太刀を受けながら、
「何故、儂が忍びだとわかった……」
 と問うた。懐に隠した小太刀を抜く力も無く、絶命寸前であった。
「知れたこと。ぬしのその残り香よ。昨日の戦いの折り、わしがそなたに当てた飛礫の香りが匂ってくるわ。多少水を浴びたとてその香りは消えぬ。そなたの鼻は麻痺し香りに気がつかなんだようだな……」
「ぬう……」
 物売りに化けた忍びは倒れた。
 半蔵は男の懐から密書を手に入れ、何事もなかったかの如く山道を下り、京へと入っていった。

 後日、徳川幕府体制に批判的な若い貴族の当主が、病のため死亡したと幕府に届け出があった。
 その影に服部半蔵の働きがあったことは言うまでもない。


プロローグ

 暗黒神に奪われた息子・真蔵の身体は取り戻すことができた。心臓は脈打ち、息もある。しかし、魂が抜け落ちている以上、二度と目を開くことはなかった――。
 そんなある日、半蔵は魔界を掌握している者を倒せば、魔界に漂う全ての魂が解放されると聞き、再び立ち上がった。
「息子よ……そなたを、必ず蘇らせようぞ」


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