二人の男が向かい合っていた。 真っ正面に相手を見据え、上段で刀を構えるざんばら髪の男と、幾人もの血を吸ってきた刃を握る虚無僧風の男──。 間に立つ全身黒づくめの男はそんな殺気立つ両者の顔を交互に見交わし、両手に持たれた二本の紅白の旗を握り締めた。 「いざ、尋常に一本目……」 軽く跳び上がり、頭の上で交差した旗を着地と同時に振り下ろす。 「勝負!」 男の声と同時に、威勢のいい掛け声でざんばら髪の男が刀を振る。 「おおりゃあ!」 (あいかわらず邪気の無い真っすぐな剣筋ですね) かぃぃぃぃぃぃん 澄んだ音がして、刀が弾かれる。刀身が夕日に照らされ、鈍い光りを放つ。 「ふんっ!」 虚無僧姿の男が返す刃で、ざんばら髪の男に斬り掛かる。 「おっと」 ざんばら髪の男は寸前のところで刃を躱す。 (ほう、あの態勢から避けますか。さすがは覇王丸さん。……そういえば、和狆さんは元気ですかねぇ)(※1) かきぃぃぃん、きんっ、ずばっ、かぃぃん、ざぶっ、ずばぁっっ、きんっ……… 再び刃と刃が交錯して火花が散り、二人の鮮血が宙を舞う。 白い旗を一度、赤い旗を二度挙げる。考え事をしていても、二本の腕は別の生き物のように正確に判断を下す。 (両者とも中々の腕前ですね。私も久々に闘ってみたくなりました) 「どりゃぁぁぁ!」 またもざんばら髪の男が全体重をのせて斬りかかる。 読んでいたかのように、虚無僧姿の男は、その剣を寸前で避け、柄頭打ちから刃を振り降ろした。 「ぐおおっ」 ざんばら髪の男から鮮血が生き物のように飛び跳ねる。 (おやおや、油断しましたね、覇王丸さん。これで決まりましたかね) 赤い旗を挙げた。 覇王丸はうずくまったまま傷口を押さえている。 虚無僧は止めを決めるべく、刀を大上段から振り下ろした。 ──隙ができた。 がきぃぃぃぃぃぃぃん。 高い金属音が鳴り響き、目の前が一瞬白くなる。 覇王丸はその一瞬の隙を見逃さず、虚無僧の必殺の一撃を弾き返した。 「うおおおおおおっ!!」 覇王丸が吠えた。 (おおっ、あれは!!) 「弧月斬!!」 覇王丸の刃が滑らかに円弧を描き、必殺の一撃を繰り出した。その攻撃をまともに受けた虚無僧はもんどりうって倒れた。 「勝負あり!」 白い旗を上げる。 (さすがです。あの僅かな隙を見逃さないとは……) 紅白の旗を腰に戻し、紙吹雪を一度、二度撒きながら、全身の血がたぎっていくのを感じた。 「覇王丸、お見事!」 (この感覚は……) 知らないうちに拳を握り締めていた自分に気付く。 (……やっぱり、私も格闘家なんですかね) 口元が緩んだ。 (そうか、そういう事なんですね) ざんっ!! 男は一挙動で去って行こうとする覇王丸の正面に回り込んだ。驚く覇王丸を楽しそうに見つめながら、今まで言えないでいた言葉を発した。 「いやいやお強いですねぇ。ぜひ、私とお手合わせ願います」 (※1)和狆のストーリーにも書かれているが、黒子と和狆は昔コンビを組んで魔物を狩ることを生業としていた。 |