清の時代の民話に残る豪傑王虎の物語。 歴史は彼の名を残さない。 ただ、偉大な皇帝の血を引く者がいたと、語り継がれるのみ…… 昔々、清とロシアとの境目の森に、体長10尺は越える大きな虎が住み着いていた。その虎の体色は紅い色をしており、村人から「紅虎」と呼ばれていた。 紅虎は近隣の村に降りて来ては牛や馬を殺し、あろうことか大人の人間までも食らった。 これでは安心して暮らせないと、紅虎を退治するために腕自慢の男共が森へと入って行ったが、二度と元気な姿で帰ってくることはなく、無残な姿で屍を村人にさらしたのである。 それ以来人々は、紅虎に脅え外に出ることをやめた。 ひっそりと佇むその村に、ある日旅の武将がやって来た。 紅虎に負けないような立派な体躯をした、筋骨逞しいその武将は、 「よっしゃぁあ!ワシがその紅虎とやらを逆に食ろうてくれるわ!」 と豪快に嗤い、子供の胴ほどある太い腕を振り回した。(※1) 村の人々は半信半疑であったが、この武将様ならきっと虎を退治してくれるに違いない、と大いに喜んだ。 「その人食い虎がいるというのは、あっちの森だな! すぐに退治してくれるわ!」 と言ったかと思うと、旅の武将は持っていた旅の荷物を置くと休みもせずに、虎のいる森へと向かった。 ふと、見ると荷物の中に青竜刀(※2)があるではないか。 「あ、あ、これでがあの紅虎に勝てるはずがない。誰か、あの武将様にこの青竜刀を届けておくれ。何心配ない。武将様はまだ近くにいるはず」 村の人々は紅虎に脅え、誰も武将に青竜刀を届けようとはしなかったが、勇気ある若者が青竜刀を持って武将の後を追った。 武将の後を追ったはいいが、なかなか追いつくことができずに、若者は森の深くまで入って行くことになった。 「武将様ーッ、武将様ーッ。ひ、人食い虎にみ、見つかったらど、どうしよう」 もう諦めて村に戻ろうとすると、 「ガ、ガ、ガァフッ」 苦しそうな呻き声が藪の向こうから聞こえてくる。 若者はもしや、あの武将様が紅虎に食われているのではないかと思い、せめて命だけはお助けせねば、と青竜刀を握り締めた。 恐る恐る藪を払うと、若者はこの世の物とは思えない風景を見た。 旅の武将が紅虎を羽交い締めにし、まさに首を折ろうとしているのだ。 「フムーッ!ハーッ!!」(※3) 武将はじわじわと腕に力を込め、紅虎を締め上げた。 紅虎の眼は一杯に見開き、口からは泡が吹き出しその太い足は痙攣を起こしている。 「これで仕舞いじゃぁああ!!」 ぼきぼきと鈍い音が鳴ると、紅虎の全身の力が抜けた。 「畜生如きがこのワシにかなうと思っていたか!!」 紅虎を地に打ち付けると、武将は藪の側で呆然とする若者を見つけ、 「おお、村の者だな、見たかおぬしらを悩ませとった人食い虎はこの通りじゃ。真の漢とはこうでなくてはならぬ!!」 武将は声を上げて豪快に笑うと、紅虎を担ぎ上げ、 「村へ帰るぞ!」 と言った。 こうして、紅虎は武将によって退治された。 武将は、真の漢を見つけるために旅を続けなければいけないのだと言って、人々が止めるのも聞かずに去って行った。 そうして村人は、彼の武将を、紅虎を退治した王者「王虎」を呼び、後世に語り継いだという…… (※1)このとき、子供が数人風圧で吹き飛ばされた。 (※2)この青竜刀は「斬肉大包丁」ではない。このあと、あることで手に入れるが、その話はまたの機会に…… (※3)この時、武将は紅虎の頭を飲み込もうとしていたと、村人は語る。 |
どこを探しても、「真の漢」が見つからず、怒髪天を衝いた王虎の前に、予言者と名乗る者が現れた。予言者は自分の魂と引き換えに、世界を掌握できる「破王の卵」の話を王虎に語った。それさえあれば中国が統一できると思った王虎は、「破王の卵」を手に入れるべく、中国をあとにした。 「でぇぇい!真の漢、王虎気功全開じゃっ!」 |