静かな夜である。 闇の中に、1点の明かりがともった。男の顔が蝋燭の火に浮かび上がる。 男は、燭台を持って御堂の中に入った。歳は30を越えたか越えないか。骨相たくましい顔をした男である。だが、表情はなかった。 男はやがて、御堂の真ん中に腰を据えた。 丸眼鏡の下から、目が闇を見据える。 夜目に慣れると、視界に白いものがふたつ浮かび上がった。薄闇の中、男の前には布団が2組敷かれていた。その上には女と子供がそれぞれ横たわっている。2人の顔には白い布切れがかぶせられ、枕元では、線香が煙をゆらりゆらりと立ちのぼらせていた。 亡骸は、男の妻と息子であった。 男は死に顔からはらりと布を取る。妻と子の死に顔をながめた。2人とも苦痛の色を見せていないのが、男にとってせめてもの救いであった。 昨日までは、この妻と子と3人で、ささやかながらも幸せに暮らしていた。 それが突然、狂った。 (あの人形師だ。あの人形師が俺から、全ての幸せを奪い去ったのだ) さびれた御堂の中に、すきま風が流れこむ。蝋燭の火が消えた。 再び、闇が濃くなる。 男はしばらく黙って亡骸を見ていたが、やがて布を戻し、かたわらに置いてあった包みをやおらほどいた。包みの中から出てきたのは、大人の背丈はある、巨大な筆。 「一度は禁じたこの封字。それもお前たちとの暮らしがあったからこそ…」 男は筆を両手に握った。その顔つきがみるみる憤怒の形相に変わっていく。 「それが…皮肉にも禁じたがために、お前たちを救えなかった…」 男は今、誰よりも己を呪っていた。己の中に流れる、封字の法の継承者の血。そのために妻と子は死んだ。 蔀戸(しとみど)を鳴らすすきま風が、やつを殺せとけしかけた気がした。 「ぬんっ」 気合いがもれる。筆が闇を斬り、解≠ニ葬≠ニいう字を虚空に書いた。字は障子に向かって書かれ、ちょうどその形に沿って炎の文字となった。 御堂を焼く炎は、夜空を衝くがごとくに燃えている。 炎の中で崩れる御堂を背に、男は歩いていく。行き先は己の人生を狂わせた人形師のもとである。 書道家・八角泰山が、再び修羅の道に入った日のことであった。 |
・修羅<復讐の封魔師>(公式サイト収録バージョン) "封字の法"という魔封じ技を使う。 彼を疎むものの魔の手が家族にまで及ぼうとしたとき、彼は家族とともに人里離れた山奥に身を隠し、技も禁じ手として封印してしまう。 だが、安息の日々も束の間だった。 "壊帝ユガ"の呪縛に操られた妻が、息子を殺めた後、自らも命を断ってしまったのだ。 守るべき者を奪われた八角は、復讐を誓い修羅となった。
・修羅<闇の書道家>(ネオフリ収録バージョン)
・羅刹<禁を解いた業師>(公式サイト収録バージョン)
・羅刹<禁を解いた業師>(ネオフリ収録バージョン)
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刀銘:神槍 瑞頭具樹 作:不明 作日:不明 刀剣の分類:矛と毛筆の二連式装填槍 刀身:2尺1寸 造りこみ:不明 説明:名の語源は「水茎(みずぐき)」=筆の意からきていると思われる。 槍の矛先部分が、矛と毛筆に入れ替わる仕込み槍であり、八角が練気を槍に注入することによって矛先が変わる。 封ずる心とされる二法のうち「縛の心」は毛筆になり、「斬の心」は矛によって、相手を成敗するように伝えられる。 封字の法と共に歴史を刻んできた槍である。 |