あか、あか、あか、あか、あか。 一面の、あか。 あれは、衣の緋? 花の赤? 焔の朱? それとも、血の、紅……? 閃く銀は答えない。 あれは『むげん』だ。 『むげん』の技を使う『鬼』。 知っている、ただ一つのもの。 探しているもの。 求めているもの。 記憶を、自分を得るために、会わなければならない。 それは『鬼』も望むこと。 『鬼』が呼ぶから。『鬼』が求めるから。 だから、だから……… ――『鬼』……? ……どうして……? 「何故、邪魔をするぅ……オナジくせに……ぃぃぃ……ィィッ!」 「『鬼』いぃィィぃぃ!!!」 「……………!」 閑丸は、目を開いた。 闇だ。光のない闇がある。深い、先の見えない、心に巣くう不安と同じ、闇。 ――ああ…… 夢を見たのだと、気づく。 いつもの夢だ。その証に、いい知れぬ恐怖と不安が心を満たしている。 それらは同時に、たまらなく甘美なものだった。 少年が持っている、数少ない、「己」のもの。この上もなく不安定でいて、確かなたった一つの、数少ないもの。 だから、その中に安堵を感じる。 いつもと同じはずだった。 だが、胸の奥、心の奥に、いつもと違う不安がある。何かわからない、異質な不安が、ある。 ――破沙羅のせいかな…… 身を起こし、胸を抑える。 不安が収まらない。多くのことがあったせいだろうか。 ――僕は…ナニ……? 破沙羅は閑丸を同じと言い、『鬼』と言った。 ――何故……? 「……どうした」 「!」 夜闇から聞こえた声に、はっと顔を向ける。光の全くない部屋の中では、何も見えないのだが。 だが、そこには半蔵が眠っていたはずだ。その向こうには、楓がいるはず。 「ごめんなさい。起こしてしまったんですね」 「『鬼』の夢を見たのか」 気配から察するに、半蔵は横になったままのようだ。 「……はい」 「そうか」 それきり、言葉は途絶える。 眠っている女の人の息遣いだけが、聞こえる。 まだ、半蔵は眠ってはいない。 雨の中で閑丸を見ていた鳶色の目。映していながら、映し出さないあの目は今も閑丸を見ている。 ――ああ…… ぎゅ、と手を握りしめる。 夢の中に起きた『異変』を、思い出す。 不安が生み出す安堵を揺るがす、不安。それはきっと、この人達に会ってしまったから。 だがそれは、望みを叶えるしるべとなる……かも、しれない。 ――だから…… 「半蔵さん」 「……なんだ」 少し間を置いて、それでも答えは返った。 「あなたは、『鬼』を知っているんですよね」 うわずりそうな声を必死に押さえ、閑丸は問うた。 確かめたい、知りたい。答えが欲しい。ほんの少しでいい……知りたい。半蔵と楓はあのようなモノまで関わるほどのつながりがある、つまり、それだけ深く『鬼』を知っている…ひょっとしたら、『鬼』の方も、知っているかもしれない……。 それは、『僕』へつながるものと、なる。なるに決まっている。 だから! 「教えて、ください!」 声を潜め、それでも精一杯強く、闇に呼びかける。 「……………」 半蔵は答えない。 閑丸はそれを肯定と取った。 「僕は、あなた達について行きます。 そうすれば……『鬼』に、会える。僕は、自分を知ることができる……!」 「………………」 また、答えは戻らない。 「ついて、行きますから」 もう一度、言った。 やはり答えはない。 閑丸は横になった。 この二人と行けば、『鬼』と会える。望みが叶う。 だけど。 きっと、この不安も大きくなる…… ぎゅっと目をつぶる。 はっきりとそこに、見えていた。 ――『鬼』は……『鬼』は僕を見ていなかった…… |