忍が嗤う。 「下がれっ!」 認識するより早く声が出る。 弾かれるように配下の忍達が跳び下がる。 一瞬遅れて、轟音。 土煙が舞い、ばらばらと様々な大地のかけらが降る。 「…………」 ためらい、駆け出す気配一つ……二つ。 「空木(うつぎ)!」 声に応じ、一つがそれを追う。 気配が遠ざかる中、地に吸われるように土煙が静まっていく。 土のにおいに、火薬と血、肉の焼けるにおいが混じる。 「木賊(とくさ)、縹(はなだ)」 「ここに」 うっすらと残る土埃の向こうに立つ影が二つ。足元に、もう一つ。先に斬られた者だ。 あの忍の姿はない。空に漂う血肉のにおいだけが、残った。 「桧皮(ひわだ)は」 「大事は、ありません」 倒れていた影が、苦しげに身を起こす。深手だが、命に関わることではないと見える。 「縹は残れ。桧皮が動けるようになり次第、先に戻れ」 「はっ」 一人が頷いた時には、半蔵ともう一人の姿はもう、なかった。 忍が嗤う。 親しげに、僅かに苦く。 あの嗤いは、と、半蔵は思う。 お前と己は同じだと、そう言っていた。 理解していた。確かに同じものが、あの忍の中にはあった。 怒り。 同じものに対する同じ怒り。 同じなのだと、半蔵も知っていた。 同じ忍だからこそ抱く怒りだ。忍であってことなるものへの怒りだ。 それは、「あれ」には決してわからないだろう。 「半蔵様」 駆けながら、木賊が言った。 「どうなさいますか」 その中にも、怒りがあると半蔵は思った。 これも忍だ。当然だろう。 おもしろいものだ、とも思う。 任の最中は感情など持つものではない。不要なそれらを下手に持てば、任を果たせぬばかりか、己の身を危うくする。 だが先刻、あの忍も、己も、この木賊も、おそらくは他の者達も怒りを持った。 敵味方なく、その一点であの場の者が皆同じ気持ちであったこと、「あれ」は気づいただろうか。 「任を果たすのみ」 一度だけ見逃して欲しい。人にものを頼むなど滅多にしないあの女性が、頭まで下げた。 わかることなどできようもないが、せめて知り、考える時を与えてやってくれ、と。 半蔵は答えなかった。 見逃すかもしれない、見逃さないかもしれない。 見逃せるかもしれない、見逃せないかもしれない。 己でもわからなかった。 だが、形は成った。ならば二度目はない。 「承知」 木賊は言葉を返し、それきり無言だった。 ひう、と風を切る音が聞こえた。 |