それからほどなくして戻ってきた浅葱は、「そうさね」と頷いただけだった。 気成の方が不快感を示し、何か言いたげにしていたが、浅葱を見、蘇枋を見ただけで、結局何も言わなかった。 楓が旅装を整えた後、三人の忍は少女と共に家を出た。 斬紅郎はそれを見送った。 赤い花で一杯の椿の垣の前に立ち、朱鞘の大太刀を超しに差し、一人、去りゆく四人を見送った。 ぴぃ……ひょろろろ…ろろ……ろ…ろ……… 鳶の鳴く声が天で輪を描き、うっすらと木霊する。 蘇枋は、ふと、振り返った。 斬紅郎が抜刀する。 轟っ!! 風の叫びが山に響き、乱舞するそれが、蘇枋達を巻き込んで吹き荒れた。 「椿が…」 風から楓をかばいながら、蘇枋は見た。 暴れる風に、無情に吹き散らされる、赤い花達を。 ぴ…ぃ…ぃぃひょ……ろろろろろろ……ひょろひょろひょろ………… くるりくるりと、地の風の舞など全く知らずに天で輪を描く鳶の声が、山に戻った。 蘇枋は顔を上げる。 斬紅郎は、いた。 朱鞘を腰に佩き、椿の垣の前に、一人、いる。 赤ではない、花を全て落とした、緑の垣の前に。 大太刀を持った右手を、上げる。 大きく、振った。 何度も、何度も。 ――いつかまた、会える。 蘇枋は思った。 天啓を受けるように、唐突に、だが何故か絶対の確信があった。 そして、手を振った。大きく。 |