ゲッシュ


序 2000年 初春 その一
 テトムは、目を覚ました。
「……オルグ……」
 強いオルグの気配を感じる。まだ目覚めてはいないけれど、その波動が多くのオルグを目覚めさせ、あるいは生み出すことだろう。
 そして多くのオルグ達の存在が、いずれは強大なオルグを復活させるに違いない。
 今回はあの時のように、一匹だけ倒せばいいというわけにはいかないだろう。
――あの、時……?
 あら? と、テトムは首を傾げた。
 しばらく前にも一度、目を覚ましたような気はする。
 そしてオルグを倒した気がする。もちろん、一人ではない。テトムはガオの戦士を導くのが役目であり、オルグと戦う力はほとんどない。
――うーん…………
 腕を組んでしばらく考え込む。

 ピィィィィィィィッ!

 泉から聞こえた声に、顔を上げる。
「荒鷲……?」
 大空を羽ばたく精獣、牙吠の荒鷲のイメージがテトムの頭に浮かぶ。
「あ!」
 それに呼び起こされ、『あの日』の記憶の断片が次々にテトムの中に蘇った。
 自然の声を聞く、北の大地の巫戦士(みこせんし)。
 熱い正義を胸に宿した、異国生まれの金の髪の忍。
 共に戦った二人の、心強い仲間……
「……うん……」
 泉に目を向け、テトムは小さく頷いた。
 聖母のように慈しみに満ち、それでいて凛とした美しさを宿した表情で。
「だいじょうぶ♪」
 にこり、と笑う。子供のように、無邪気に。
「ガオイーグル……見つけたのね」
 忍が教えてくれた、忍の故郷の言葉で、精獣に呼びかける。
――ピィッ!
 泉にはガオイーグルと、それが見守る鉄の翼の鳳が映っている。
「一人目、いっくぞぉ☆」
 光に姿を変え、テトムは泉に身を踊らせた。

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