回想 ―壱―


 皓々と、真円の月が天で輝く。
 まばゆいほどだが、日輪のように鋭くはない。
「この酒、随分と甘いな」
 その光の下で二杯目を口にしながら、ぼそりと半蔵は言った。
「仙台の物好きの蔵が、作った酒です」
「甘い酒は、苦手ですか?」
「嫌いではない……楓が好きな味だ」
「へぇ、母上が」
 勘蔵は酒が好きだが、半蔵と真蔵はそれほどは飲まない。その為、服部家では酒を酌み交わすといったことがこれまでなく、自然と、兄弟は母が酒を飲むところも見たことがない。
「うむ」
 頷き、半蔵は顔をしかめた。
「?」
 真蔵と勘蔵が首を捻ると、酒の所為か月の所為か、それとも今夜が特別だからか、珍しく饒舌に半蔵は言った。
「……楓は綾女殿の元で過ごしていた時期があってな……そのせいか、やたら酒に強い」
「強いんですか」
「強い。
 表情も変えずに一升あけたことがある」
「……そ、それ……は」
「その隣で綾女殿は二升あけたが」
「父上……は」
「あの二人の酒につき合えるものは、この里にはおらぬ」
 低く、些か憮然とした口調で言って、半蔵は杯を干した。
「…………」
「…………」
 兄弟は、顔を見合わせた。

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