「蒼月兄さん、火月兄さん」 緑がかった色の髪と、くりくりと動く大きな瞳を持った娘、大切な妹はそう言って笑んだ。 「なんだ?」 「……」 火月は声で、蒼月は視線で答える。 「二人とも、だーいすき、よ」 二人の間にひょい、と潜り込んで、妹は二人を見上げた。 「…どうしました」 普段から甘えん坊ではあったが、こんな風に甘えてくるのは珍しい。 「なんかあったのか」 ふと不安になる。 「ううん。何も」 そう言うものの、寂しそうな表情が妹の顔に浮かんだ。 「ずっとずっと、一緒だよね。火月兄さんも、蒼月兄さんも、ずっとずっと、一緒だよね」 大きな目に、涙がにじむ。 まるで何かを予感したように。 「あったりまえだろ」 火月は妹の頭に、そっと手を置いた。 「ずっと…一緒ですよ」 蒼月は優しく、言う。 兄達の手と言葉とに、妹は太陽のような暖かな笑みを浮かべた。 ふうっと、その姿が、笑みが、かき消える。 「葉月……?」 答えは、ない。 「葉月、おい、葉月、葉月、どこだ、葉月っ!」 「葉月は…もう、いませんよ」 兄は僅かも表情を変えず、短くそう言い放った。 「いないって、どういうことだよ!」 「葉月のことは…忘れなさい」 何かを知っているのだろうか、そんな考えがちらりと浮かぶほど、兄の言葉は冷静だった。 「忘れろって、何を言うんだ兄貴!? 葉月は俺達の妹だぞ! 妹を捨てろっていうのか!?」 自分と同じように、いや、自分よりもずっと妹のことを想っていたと信じていた兄が、妹を見捨てるなどと思えなかった。 「諦め…なさい」 しかし火月の剣幕にも兄の表情は変わらず、冷たい言葉一つが戻るだけだった。 「兄貴の馬鹿野郎!」 火月の怒声に、僅かに蒼月は目を細くした。 「掟なのですよ…火月」 探しに行くと言ってきかない弟に、蒼月は諭すように言った。 「そんなもん関係ねぇっ! 俺は葉月を助け出す!」 怒りと不安、そして深い想いに揺れる弟に、その言葉は届かないと知っていたけれども。 「掟を破る…というのですか」 何人も、長の許し無しに里を出てはならない。 「掟がなんだ、葉月の方がよほど大切だ!」 迷いなく、心のままに、ただ妹を想う心のままに、弟は叫ぶ。 「火月」 荒げるでもない、静かな蒼月の声に、弟は僅かに怯んだ表情を浮かべたが、それでも、 「俺は、俺は、葉月を救い出してみせる!」 蒼月が口を開くより早く弟は、飛び出していった。 「蒼月兄貴…」 眠ったまま、小さく、火月は呟く。 『…葉月…』 「火月…」 闇の中で一人、蒼月は呟いた。 |