「終わったか」
 既に刃を納めた十兵衛は、戻ってきた半蔵に笑みを向けた。
「そちらも」
 庭に累々と倒れ伏した浪人達に、ちらりと半蔵は視線を向ける。大半が峰打ちである。真壁の元にそろっていたのは朧を除けば数ばかりであったようだ。
 その真壁は、縁でがっくりと膝を突いていた。元取りが斬られ、落ち武者の如く無惨ななりになっている。越後屋はその隣で、無様に気を失っていた。
「半蔵様」
 十兵衛の脇で控えていた嘉助の手には、つつじの鉢がある。
「うむ。
 お主の傷は」
「手当はすませております」
 言う通り、嘉助の腕には、手拭いを裂いて作ったと思われる包帯が巻かれている。
「半蔵殿、感謝いたす」
 目礼する十兵衛に、半蔵は小さく首を振る。
「我らのことを果たしたまで」
「いや、こちらの嘉助が真壁の悪事の証左も見つけ出してくれてな。手間が省けた」
 十兵衛は手にしていた書状の束を、半蔵に示した。
「…………」
 半蔵が嘉助に目をやれば、嘉助は無言でつつじを見る。
 花は、星明かりの下でも見事に咲き誇っていた。まるで何事もなかったかのように。凜と。
「ん?」
「いえ。
 我らのことを果たしたまでのこと」
 首を捻った十兵衛に、半蔵はただ、そう答えた。

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